それに聴覚の能力

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それに聴覚の能力


誰にも“想い出の香り”はあるだろう。しかしその香りが必ずしもいい匂いとは限らない。
たとえ他人にとって不快なニオイであっても、本人はそう思っていないこともある。

「娘の想い出の香り、なんだろうなぁ 香港服務式住宅?帰ったら訊いてみよう」 
大野がどことなくしんみりした口調で言った。
「それもそうだけど、文ちゃん自身のお母さんの匂いは?」
「私の母のですか?えー、中華風のスペアリブとか……」
「おっと!現実的か……。もっとポエムっぽいのは?」
「そうですねぇ Beverly skin refining center脫毛。母は頭のてっぺんが透けちゃうとか言って、外出するときによくヘアスプレーを
使ってるんですけど、それの匂いですかね」
「うーん。あるとは思うけど、それもとりあえず却下~!」
「人それぞれですから、却下はないと思いますよ。そのスプレー、私は好きな匂いじゃないんですけど、
だからよけいに母を連想するんですかね 母乳 研究?」
「きっとそうだろうね。癖があるほど印象も強いからね。あ、♪お母さん、いい匂い……って
歌があったっけ」
「“おかあさん”ですね。あの歌では洗濯とか石鹸とか玉子焼き……ですね。うちの場合やっぱり
柔軟剤とか化粧品、あとはよくやる餃子かなぁ」

大野は新生児がお母さんのおっぱいの匂いを嗅ぎ分けることや、同じように母親は我が子の匂いが
わかるとか、娘が泣きやまないときに自分が着ていた服を顔の近くに置いたら静かになったなどと、
プライベートな経験も織り交ぜて話してくれた。

「じゃあ、飯田さんの想い出の香りは?」
「俺はいいよ。胸の内に秘めておく」
そう言ってとぼけたものの、飯田も我が身を振り返ってみる。まさか歌舞伎町の女性の髪の匂い……
しかもわずかに煙草の香りが混じった、などと生臭い告白をするわけにもいかない。
それは気軽に嗅いではいけない、危険な香りでもある。

飯田は数ヵ月前から禁煙しているが、恵理も綾香も煙草は「臭い、臭い」と嫌がっていた。
何より健康によくないし、カーテンや壁も黄色くなる。綾香などは「パパ、煙草なんかやめて、
私のお小遣い増やしてよ!」と平気で言ってくる。
それでもこの嫌な煙草の香りが、いずれは想い出として彼女たちの記憶に残るのだろうか。

田丸がさらに話題を広げ、ちょっとしたブレインストーミング状態を呈してきた。
いいアイディアが生まれるのは、こんなリラックスした雰囲気からだ。
「飯田さん、PR誌で鼻の特集をやりませんか?」
「鼻の写真でも送ってもらうか?」
「あ、それはどうでしょうか」
「そうだ!象の嗅覚は凄いよ。動物界では最強だからね。五キロ先のハンターの匂いがわかるし、
土の中の水の匂いも嗅ぎ分ける。それに聴覚の能力も飛び抜けていて、十キロ先の仲間と低周波音で
会話ができる。おまけに足の裏の感覚がめちゃめちゃ繊細なんだって。で、そこからの刺激が耳に
伝達されるんで、三十~四十キロ離れたところの音も捉えるんだって」
「驚きましたね。象で思い出しましたが“エレファントカシマシ”ってバンド、前から好きなんですよ」
「へー、そうだったんだ。“エレカシ”ね。……石川さゆりだと思った」
「それは、ばあちゃんですって!」

田丸はエレファントカシマシの名前の由来は、周囲から「かしましいぞう!」と言われていたからだとか、
映画の“エレファントマン“と“かしまし娘”を合体させたものとか、鹿島という鼻の大きい人がいた、
などと得意そうにうんちく話を披露した。こういった話の飛躍が良質なアイディアを生む。
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