海辺の悲話

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海辺の悲話

海辺に近く 領地を治める門多義(もんたぎ)と 喜谷部(きやぶ)の 二家がございました。
 過ぎたことのように申しましたのは、 すでに 両家は跡形もなく 廃絶の憂き目に遭ってございます。

 両家は 歴史のある旧家で、 勇猛果敢な、 ただならぬ由緒のあるお家柄でございましたが、
 両家の間に横たわる 悪しき因縁の深さもまた、 ただならぬものにございました。
 隣り合った領地を治めながら、 仲の悪さは天下一品。
 下々の兵から下僕、 端女(はしため)にいたるまで、
 何かというと 諍(いさか)いを演じては 争っていたのでございます。

 ある年のことでございます。
 喜谷部家にて 祝いの宴が催されました。
 何の祝いだったやら、 其処までは存じませんが、
 近隣の知り合いまで美麗華領隊も招待され、 それはそれは 賑やかな宴だったそうにございます。
 喜谷部家の当主は 賑やかなことを好いておられたとのこと。
 何事も無ければ、 ただそれだけのことで済んでいたはずでございました。

 しかしまあ、 世の中というものは 何が起こるかわかりません。
 その宴に、 なんと 門多義家跡継ぎの若様、 世美雄(よみお)様が紛れ込んでいらしたのでございます。
 お若い方のなさる事ゆえ、 度胸試しの悪戯(いたずら)のつもりでもございましたでしょう。
 が、 事はそれだけに収まりませんでした。
 中庭で 喜谷部家の樹里(じゅり)姫様とお会いになってしまわれたのです。

 お二方とも 見目の良い若様と姫君、
 ひと目で心引かれ、 慕(した)い合う仲になってしまわれたのでございます。

 しかし どんなに思い合おうとも、 ご両家は犬猿の仲、 お許しが出よう筈もございません。
 ついに 駆け落ちをなさる羽目に陥りましたが、
 その途中、 少しの行き違いから、 互いに お相手が亡くなられたと勘違いしてしまわれ、
 後を追おうとして、 哀れ お二方ともに亡くなってしまわれました。

 ご先祖様のお怒りがございましたのでしょうか。
 眞に哀れな成り行きでございます。

 門多義家では 跡継ぎを殺されたと怒り、
 喜谷部家では 手中の珠を殺されたと怒り、
 ますます両家の間は 剣呑美麗華領隊(けんのん)なことになった次第にございます。

 事を収めようと 古老が骨を折ったそうにございますが、
 努力も祈りも虚しく、 両家は戦(いくさ)になりました。
 今上の天子様が 御位に着かれましてからは、
 とんと争いも無く、 穏やかな日々が続いておりましたのに、 情けないことでございます。

 怒りに任せた戦いは 収まるところを知らず、 領地を戦の渦に巻き込みました。
 ついには 両家の主だった縁者までもが次々と倒れ、 共に立ち行かなくなりました。

 はい、 門多義家も 喜谷部家も もはやございません。
 領地は 天子様の直轄領となりましたが、
 戦に踏みにじられた彼の地加州健身中心が 繁栄を取り戻すには、 長い時を要すことでございましょう。



「何を書いているのだ?」
「い、 いえ、 何でもありません。 ただの覚書です」
「見せて」
「やです。 字の練習です。 書き取りみたいなものです。 み、 見ないでくださいー」
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